1.録画では、音の学習が起きなかった
赤ちゃんは、生身の人とのやり取りの中で言葉の音を学んでいる——そう示したのが、米国科学アカデミー(全米トップクラスの科学者が集まる学術団体)が発行する学術誌PNASに2003年に報告された実験です。
赤ちゃんは生まれた直後、世界中の言語の音を聞き分ける力を持っています。ところが生後6〜12か月のあいだに、ふだん耳にしない外国語の音を聞き分ける力は急速に弱まっていきます。これは、脳が身の回りの言語に合わせて効率化していく自然な過程です。
米ワシントン大学のクール博士らは、英語環境で育つ生後9か月のアメリカの赤ちゃんに、中国語(北京語)を話す人が絵本を読んだり遊んだりする時間を計12回設けました。その結果、中国語の音を聞き分ける力は、英語だけを聞いたグループのように弱まることなく保たれていました(Kuhl, Tsao & Liu, 2003)。
続く実験では、同じ話し手・同じ内容を、映像つきの録画または音声だけで聞かせました。すると、録画で中国語を聞いた赤ちゃんには、学習の効果がまったく見られなかったのです。同じ音が耳に入っていても、目の前の人とのやり取りがあるかどうかで、学びの結果が大きく変わりました。
2.知育DVDで、言葉は増えたのか
では、赤ちゃん向けに作られた知育DVDならどうでしょうか。米バージニア大学のデローチ博士らは、生後12〜18か月の子どもに、言葉を教えることをうたった人気DVDを、自宅で週に数回・4週間見てもらいました(DeLoache et al., 2010, Psychological Science)。
結果、DVDを見たグループが覚えた言葉の数は、見なかったグループと変わりませんでした。いちばん多くの言葉を覚えたのは、DVDを使わず、親がふだんの生活の中で同じ言葉を教えたグループでした。
もう一つ興味深いのは、DVDを気に入っていた親ほど、子どもがDVDから学んだ量を多めに見積もる傾向があったことです。「うちの子、動画で覚えたみたい」という実感は、必ずしも実際の学習量と一致しない、ということでもあります。
3.画面でも「やり取り」があれば違う
ここで一つ疑問が出てきます。問題は「画面」そのものなのでしょうか。それとも「一方通行」であることなのでしょうか。この点を確かめたのが、米ワシントン大学のロズベリー博士らの研究です(Roseberry, Hirsh-Pasek & Golinkoff, 2014, Child Development)。
2〜2歳半の子ども36人に新しい動詞を教える際、①目の前の大人から、②ビデオ通話越しの大人から、③そのビデオ通話を録画した映像から、の3つの方法を比べました。ビデオ通話では、大人が子どもの反応を見ながら名前を呼んだり、話しかけ方を変えたりできます。
新しい言葉を覚えられたのは、①と②のグループだけでした。画面越しでも、子どもの反応に合わせて返してくれる相手がいれば学びは起きる。逆に、同じ映像でも一方通行の録画では学びにつながりにくい、という結果です。
4.脳を動かすのは「言葉の量」より「往復」
会話の「往復」が脳にどう関わるのかを、MRIで調べた研究もあります。米ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)のロメオ博士らは、4〜6歳の子ども36人の家庭の会話を録音し、子どもが耳にした大人の言葉の数と、大人と子どもが交互に話した「会話の往復」の回数を数えました(Romeo et al., 2018, Psychological Science)。
そのうえで、物語を聞いているときの脳の働きを調べると、会話の往復が多い子どもほど、言葉を組み立てる「言語の中枢」として知られる左下前頭回(ブローカ野)がよく活動していました。この関連は、家庭の経済状況や、単に聞いた言葉の数を考慮しても残りました。
つまり、たくさん話しかけることそのものより、子どもの声に応えて言葉を返し合うことが、言葉の脳の育ちと結びついている可能性がある、ということです。なお、この研究は4〜6歳が対象で、関連を示したものであり、因果関係までを証明したものではありません。
5.動画を「ゼロ」にしなくてもいい
とはいえ、動画を一切見せてはいけない、という話ではありません。42件の研究(子ども約1万9千人)をまとめたカナダ・カルガリー大学のマディガン博士らのメタ分析では、視聴時間が長いことや、見ていないのにテレビがついている「ながら視聴」は言葉の力の低さと関連していました(Madigan et al., 2020, JAMA Pediatrics)。
一方で、教育的な番組を選ぶことや、大人が一緒に見ること(共同視聴)は、言葉の力の高さと関連していました。いずれも「関連」であり効果の大きさは小さめですが、見せ方しだいで意味合いが変わることを示しています。
6.読者のみなさんへ
ここまでの研究をまとめると、乳幼児期の言葉の学びでは、動画から「聞かせる」ことより、目の前の人と「やり取りする」ことが大きな役割を果たしているようです。忙しい日に動画に助けてもらうことは、多くの家庭にとって現実的な選択です。
そのうえで、食事やお風呂、おむつ替えのような何気ない時間に、子どもの声に一言返してみる。特別な教材がなくても、そうした日々の往復が言葉の土台になっていく、と研究は教えてくれています。
7.参照した論文
現役脳神経外科医。大学病院での臨床と研究のかたわら、一次論文をもとに子育て・発達の情報を届けています。

